年金カットか、公的年金制度の長期安定か。国民年金法の改正

【監修: R&C株式会社 ファイナンシャルプランナー 菱村真比古】

野党から年金カット法案と揶揄された改正国民年金法*が
2016年12月14日、参院本会議にて成立しました。
野党が言うように、本当に年金は今より減るのでしょうか。
また、どのようなしくみで年金額は改定されるのか、
わかりにくい年金額の改定ルールを確認していきます。

今回の改正では、パートの厚生年金への加入が500人以下の企業でも可能になり、
自営業者の産前産後期間の保険料が免除されることになりました。
とくに女性にとって関心のある制度が今後どのように変わるのか見ていきましょう。

【目次】
◆ 年金が減らされる?年金額の改定ルールの見直し
◆ マクロ経済スライドは、将来世代の年金を守る?
◆ 500人以下の中小企業でも、パートが厚生年金に加入できる?
◆ 自営業でも産前産後の保険料が免除に
◆ まとめ

 

年金が減らされる?年金額の改定ルールの見直し

公的年金制度は現役世代が保険料を支払い、
高齢者が受け取るという世代間扶養となっています。

現在、年金支給額は毎年度、受給者の生活に配慮しながら、
現役世代の負担にならないように賃金水準と物価水準、
「マクロ経済スライド」による改定ルールによって決められています。

たとえば平成28年度は、賃金水準の指標としている「名目手取り賃金変動率」が
マイナス0.2%、物価水準の指標である「物価変動率」がプラス0.8%、
マクロ経済スライドによる調整率がマイナス0.7%で、
年金額は前年度と同額になりました*1。

これは、「物価水準は上がっていても、
賃金水準が下がっていれば年金額は据え置く」というルールによるものです。

また、物価・賃金水準とも下がった場合は、
下がり幅の小さい方に合わせて減額するのが現行のルールです。

しかし今回の改正は、現役世代の負担を考慮して、
賃金水準の変動が物価水準の変動より下回っていれば、
賃金水準に合わせて年金を減額するものです。

野党民進党は、「過去10年のデータに新ルールを当てはめると、
年金は5.2%減る」と試算し、
それに対し厚生労働省の試算では、「年金額は3%減り、
若い世代の年金は7%増える*2」として、両者に隔たりがあります。

将来の年金額は経済情勢に影響されるので、
予測が難しいことも年金受給者や定年が近い50代、60代を不安にさせています。

 

マクロ経済スライドは、将来世代の年金を守る?

「マクロ経済スライド」は、平成16年の年金制度改正で導入されたしくみです*3。

平成28年度の改定では「マクロ経済スライド」による調整はありませんでした。
この調整は年金額が上がったときだけ実施されます。

導入前は賃金上昇率や物価上昇率に応じて年金額を引き上げてきましたが、
少子化、高齢化が進む状況下で現役世代の負担を限定するため、
平成29年度までは保険料を引き上げ、以後は固定することになりました。

保険料収入と国の負担金で年金制度を運用していくためには、
給付水準の調整が必要です。
そのため、現役世代の人口減少や平均余命の伸びを反映させた
「マクロ経済スライド」による調整が行われることになりました。

たとえば物価上昇率が1.5%で、スライド調整率*4が0.9%なら、
年金額の改定率は「1.5% -0.9% =0.6%」になり、給付は抑えられます。

ただし、年金額に年金受給者の生活への影響に配慮した
下限(名目額下限)が設けられました。
そのため、賃金・物価の上昇率が小さいときはスライド調整率は
部分的にしか実施されません。
また、物価・賃金とも下がれば未実施となります。

今回の改正では、この実施されなかった分のスライド調整率を次年度に持ち越して
(キャリーオーバー)、賃金・物価の上昇範囲で
確実に実施するようにルールを見直しました。

 

500人以下の中小企業でも、パートが厚生年金に加入できる?

年金額改定以外に、パートなど短時間労働者の厚生年金への加入範囲も改正されました。

すでに平成28年10月から従業員数501人以上の事業所には適用となっていますが、
500人以下の中小企業でも、労使が合意すれば加入できるようになりました。

これにより、約50万人が対象なると見込まれています。
待遇を改善して人材を確保したい企業にとっては、選択肢が増えたことになります。

政府は就労調整を防いで厚生年金の適用を広げようと、賃金を引き上げたり、
労働時間を延長して短時間労働者に社会保険を適用した事業者に対して
キャリアアップ助成金*5を支給しています。

働く人の側から見ると、収入や将来の年金を増やし、
キャリアを積みたい人にとっては社会保険の適用は朗報でしょう。

一方、保険料を負担しない範囲で働きたい人は、
勤務先が社会保険の適用事業所になったら、時間数を制限したり、
社会保険が適用されない勤務先へ転職することが必要になったりするかもしれません。

女性が多く関わる制度のうち、保険料を負担しないで年金が受給できる
第三号被保険者制度の見直しも、厚生労働省の社会保障審議会で議題になっています*6。

また、税制改正でも配偶者控除の改廃が検討されるなど、
今後パートで働く人も、働き方の選択に直面する場面が出てくるでしょう。

 

自営業でも産前産後の保険料が免除に

改正国民年金法では、国民年金の第一号被保険者の出産にあたり、
4カ月間の産前産後期間にかかる国民年金保険料を免除することになりました。

仕事を休むと収入が途絶えてしまう自営業の人は、負担が軽くなります。

厚生年金の場合は、すでに産前産後期間中は第二号被保険者本人と会社は
保険料が免除され、その期間は保険料を払ったものとして扱われています。
免除された保険料は、厚生年金の加入者全体で負担しています。

第一号被保険者の場合も、免除期間に対応する基礎年金は満額支給となります。

その財源として、第一号被保険者全体で国民年金保険料を
月額100円程度引き上げることが見込まれています。

労働基準法の産前産後休業は自営業者には適用されませんが、
もともと母性保護の規定であり、働けない状態は厚生年金の被保険者と同じです。

次世代育成支援の観点も踏まえて改正されました。

 

まとめ

年金額改定ルールの見直しと厚生年金の適用拡大は、
「持続可能な社会保障制度の確立を推し進める」ために
制定された社会保障改革プログラム法*7で、
着実に実施するべきものとして掲げられていたものです。

公的年金の分野では以下の2つが検討項目としてまだ残っています。

高齢期における職業生活の多様性に応じ、一人ひとりの状況を踏まえた年金受給のあり方
高所得者の年金給付のあり方および公的年金等控除を含めた年金課税のあり方の見直し

負担と給付のバランスを取るといっても、現状では給付の抑制は避けられそうにありません。

これからは、現役のうちに年金保険や確定拠出年金などで老後資金を
「貯める」だけでなく、健康で長く働き続けることも視野に入れて
生活設計を考えてみましょう。

 

【参照】
*厚生労働省「公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律案の概要」
*1 厚生労働省プレスリリース「平成28年度の年金額改定についてお知らせします」(平成28年1月29日)
*2 民進党HPより
*3 厚生労働省「いっしょに検証!公的年金」「マクロ経済スライドってなに?」
*4 スライド調整率=公的年金全体の被保険者の減少率+平均余命の伸びを勘案した一定率(0.3%)
*5 キャリアアップ助成金リーフレット
*6 第3回社会保障審議会年金部会(平成23年9月29日)議事録
*7 社会保障改革プログラム法(持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律)

監修者プロフィール

R&C 菱村真比古

R&C株式会社 菱村 真比古(ひしむら まさひこ)
中高の教員免許を持つ異色のファイナンシャル・プランナー。結婚や住宅購入のほか、社会保険制度が複雑に絡むライフプランをシンプルに紐解きます。柔軟かつ合理的な相談対応力で活躍中の「女性の人生を豊かにクリエイトするお金と保険のエキスパート」です。

得意分野 : ライフプランニング、住宅ローンアドバイス、相続の準備と対策
保有資格 : トータル・ライフ・コンサルタント(生命保険協会認定FP)、ファイナンシャルプランナー(日本FP協会認定)、DofD認定プロデューサー(T-PEC社認定)、住宅ローンアドバイザー(一般社団法人住宅金融普及協会)、公的保険アドバイザー®

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