近年、「LGBT」と呼ばれる性的少数者への社会的関心が高まっており、自治体や民間企業では、啓発や差別の解消に向けて対応を進めています。
生命保険業界では、保険金の受取人に同性のパートナーを指定できるようにサービスを広げる会社が増えています。また損害保険でも、保険の補償対象に同性パートナーを含めるといった対応をする会社が出てきました。ここではLGBT問題とLGBT対応の保険について紹介します。
【 目次 】
◆ LGBTとGLBTの抱える問題。世界の約76か国で起きている事実
◆ 進むLGBTの差別解消への取り組みと社会的認知
◆ 広がる可能性、同性パートナーでも保険金の受取人に指定できる保険
◆ なお残る、法的な問題
◆ まとめ
LGBTとGLBTの抱える問題。世界の約76か国で起きている事実
国連によると、世界のおよそ76カ国で同性愛が法律で犯罪とみなされ、逮捕・投獄や死刑判決の危険にさらされている(*1)そうです。
日本では性的指向を差別的に扱う法律はありませんが、同性愛者や両性愛者の人たちは、学校や職場で偏見や差別に悩み、場合によっては会社を辞めなければならない状態に追い込まれるケースもあります。
このような性的少数者の人たちは、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの頭文字)と呼ばれていますトランスジェンダーには、心の性と体の性が一致せず、社会生活に支障がある性同一障害が含まれます。
近年、国も啓発活動を行い、LGBTであることで差別するのは不当だという認識は広がっています。しかし、たとえば同性カップルのパートナーは、法律や社会生活上、必ずしも法律婚の配偶者と同じに扱われているわけではありません。
・国民年金の第3号被保険者になれない
・パートナーが亡くなっても遺族年金が受け取れない
・所得税の配偶者控除が受けられない。
といった法律上の差のほかに、
・会社の家族手当や配偶者手当が受け取れない
・住宅ローンの審査でパートナーの収入を合算できない
・家族割引などの特典が使えない
など民間企業の制度やサービスでも異なる扱いを受けています。
※LGBT レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・性同一障害を持つ人を含む、性別越境者(トランスジェンダー)の人々を意味する言葉
参考:*1国連広報センターHP
進むLGBTの差別解消への取り組みと社会的認知
2015年、東京都渋谷区が性的少数者の人権保護を盛り込んだ「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」(*2)を制定し話題となりました。とくに同性カップルに「パートナーシップ証明書」を交付し、区民や事業者などに配慮を求めたことが注目を集めました。
これによって、同性のカップルが親族や家族と認められず、拒否されてきた賃貸住宅への入居や、入院時の面会などが可能になると期待されたからです。
現在、自治体は相談窓口を設け、支援体制を整備し、民間企業はLGBTに対する理解の推進や職場環境の改善に取り組んでいます。文部科学省は2015年に教育現場に向けて、性同一障害の子どもたちが抱える不安や悩みを受け止め、きめ細かな対応を求める通知(*3)を出しました。
このようにLGBTの人たちの人権保護の取り組みが盛り上がっているのは日本だけではありません。2011年、国連の人権理事会は性的指向と性同一性に関して初の国連決議(*4)を採択し、LGBTの差別解消は国際的な流れとなっています。
参考:
*2 東京都渋谷区「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」
*3 文部科学省「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」
*4 国連・人権理事会決議「人権、性的指向およびジェンダー同一性」
広がる可能性、同性パートナーでも保険金の受取人に指定できる保険
渋谷区が条例を制定した2015年以降、民間企業は社内のダイバーシティ(多様性)推進の一環としてLGBTの問題に取り組むだけでなく、LGBTに配慮した商品やサービスの提供を始めるところも出てきました。
たとえばLGBT向けの結婚式や携帯電話の通信料金の家族割引に同性パートナーを含めるなど、さまざまな業種に及んでいます。
生命保険会社各社では、保険金受取人に同性パートナーを指定できるよう取り扱いを変更するところが増えています。これまで保険金受取人は、配偶者や親、子、兄弟といった親族などに限られてきました。
事実婚の場合でもいくつかの条件を満たす必要がありましたが、同性パートナーも、自治体のパートナー証明書の提出、あるいは一定の条件が揃えば受取人として指定できるようになってきました(*5)。
損害保険でも、火災保険や自動車保険、個人賠償責任保険など、配偶者が補償対象の場合、配偶者に同性パートナーを含める会社も出てきています(*6)。
参考:
*5(例)ライフネット生命、第一生命、アフラック
*6 東京海上日動火災保険株式会社2016年8月
なお残る、法的な問題
しかしこうした保険会社の取り組みが広がる一方で、法律上、同性婚は認められておらず、税制の扱いは婚姻している配偶者とは異なったままです。
たとえば生命保険料控除の対象となる契約は、「保険金等の受取人のすべてをその保険料等の払込みをする方又はその配偶者その他の親族とするもの」となっています。したがって受取人を同性パートナーに指定できても、生命保険料控除を受けることはできません。
また相続人が受け取った死亡保険金は、「500万円×法定相続人数」が非課税限度額となります。しかし同性パートナーは法定相続人ではないため、受け取った保険金は課税対象です。
なお相続税制では配偶者は、1億6千万円または配偶者の法定相続分相当額のうち、どちらか多い金額までは相続税はかかりません*。同性パートナーではこの相続税の軽減制度も適用されません。
このように、同性カップルが異性カップルと同等の扱いを受けるには法律の変更が必要で、民間企業の取り組みだけでは難しいのが現実です。
【参照資料】 国税庁タックスアンサー
「生命保険料控除の対象となる保険契約等」
「相続税の課税対象になる死亡保険金」
「配偶者の税額の軽減」
まとめ
パートナー亡き後、生活の糧をどうするかは、高齢の残されたパートナーにとっては重要な問題です。婚姻している配偶者に認められている相続税の軽減や、遺族年金の受取などが同性パートナーには認められていません。そのため同性カップルは、経済面の対策をしっかり考えておく必要があるといえます。
また高齢期に備え、成年後見制度や遺言書の利用なども視野に入れ、心配なときは法律の専門家や自治体が設置しているLGBTの相談窓口などにも行ってみましょう。