介護保険は、認知症や体が不自由になった時の「お年寄り専用」ではありません。現役世代が公的介護保険を使える病気や利用法、社会保障制度を活用した介護費用・医療費の節約法などをじっくり解説します。
【目次】
◆ 65歳未満でも介護保険の対象になる16の特定疾病
◆ 特定疾病になったとき、公的介護保険をどう利用する?
◆ 介護や医療にかかる経済的負担を軽くするには?
◆ 生活を経済的に支え守る社会保障制度もあります
◆ 公的介護保険&社会保障制度、知ると知らないとでは大違い
65歳未満でも介護保険の対象になる16の特定疾病
末期がんで自宅療養、若年性の認知症など、若くても介護状態になることはあります。実は65歳未満でも、介護保険は条件によって利用することができるのです。
ここでお話するのは、民間の介護保険ではなく、公的な介護保険のこと。まずは介護保険のおさらいから始めましょう。
40~64歳のための公的介護保険の基礎知識
● 40歳以上は全員が自動的に加入
満40歳になると、介護保険の被保険者となり、介護保険料の支払い義務が発生します。
● サービスが受けられる保険
民間の介護保険は給付金が出ますが、公的な介護保険はお金でなく、現物給付としてサービスが受けられるものとなっています。
● 要介護認定は7段階
「要介護認定」でどの程度の介護が必要かをランクづけ。介護の必要性に応じ、「要支援1・2」「要介護1~5」の7段階があります。
● 介護サービスが1割負担で受けられる
認定されると、介護サービスの費用が1割(一定以上の所得がある方は2割)の自己負担で利用できます。ただし、支給限度額は要介護度のランクに応じた上限があり、限度額を超えてサービスを利用した場合、超過分は全額自己負担になります。
● 40歳~64歳は条件づきで介護保険が使える
加入者は年齢で分けられ、65歳以上は「第1号被保険者」となり、原因を問わず要介護状態になれば介護サービスが受けられます。40歳~64歳は「第2号被保険者」。介護サービスを受けられるのは、特定疾病(16疾患)により要介護状態になった場合のみです。
介護サービスが受けられる、16の特定疾病
特定疾病とは、65歳以上の高齢者に多いけれど、40~64歳でも発症し、加齢が原因とされる病気のこと。
40~64歳でも介護サービスが受けられるのは、以下の16の疾病です。
1 がん【がん末期】
2 関節リウマチ
3 筋萎縮性側索硬化症
4 後縦靱帯骨化症
5 骨折を伴う骨粗鬆症
6 初老期における認知症
7 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病
8 脊髄小脳変性症
9 脊柱管狭窄症
10 早老症
11 多系統萎縮症
12 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
13 脳血管疾患
14 閉塞性動脈硬化症
15 慢性閉塞性肺疾患
16 両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
特定疾病になったとき、公的介護保険をどう利用する?
もし、あなたが、65歳未満で16の特定疾病に該当している場合は、迷わず介護保険を利用してください。各種サービスが自己負担1割で利用でき、あなたを介護する家族の身体的・精神的負担を軽くすることもできます。
介護保険の申請から利用までの流れ
申請からサービス開始までのプロセスは、以下の通り65歳以上の方と同じです。
1.申請書の提出: お住まいの市区町村の窓口に要介護認定の申請書を提出。
2.訪問調査: 認定調査員が自宅へ訪問し、申請者本人に会って日常生活動作などの状態を調査します。調査結果と主治医の意見書をもとに介護認定審査会で、要支援・要介護のランクが判定されます。
3.認定結果通知: 原則30日以内に判定結果が伝えられます。
4.ケアプランの作成: 要支援の場合は地域包括支援センターに相談。要介護の場合は介護支援専門員(ケアマネジャー)と相談してケアプランを作成してもらいます。
5.サービス開始: ケアプランに沿って、サービスが始まります。
認定されると利用できる、さまざまな介護サービス
サービス内容は、自宅での生活や身体の援助(掃除、洗濯、買物、食事・排泄・入浴などの介助)など。また介護保険施設で入浴や食事、機能訓練を受ける「デイサービス」や「ショートステイ」。さらに、車いす・ベッドなどの貸与、住宅改修の助成などもあります。
万が一、要介護認定において「非該当」と認定されても、市区町村の地域支援事業などで、生活支援などの各種サービスが利用可能なことがあります。市区町村や地元の地域包括支援センターに相談してください。
介護や医療にかかる経済的負担を軽くするには?
生命保険文化センターの「平成27年度生命保険に関する全国実態調査」によれば、介護費用の平均月額は79,000円、全体の16.4%は月額15万円以上でした。
体調の悪化で介護の必要性が増すと、介護サービスが1割負担とはいえ、家計が脅かされる心配があります。病気や状態によっては公的な医療支援や生活支援制度が利用できるので、医療保障や社会保障制度を上手に活用し、費用を軽減しましょう。
医療費が高額になったときは~「高額療養費制度」
医療保険では医療費は通常3割負担ですが、それでも医療費が高額になる場合があります。そこで、1か月(月初めから月末まで)の医療費が高額になった場合に一定の自己負担額を超えた部分が払い戻されるのが「高額療養費制度」です。所得によって自己負担限度額は違います。
【70歳未満で標準報酬月額30万円の方を例にすると】
1か月間の同一医療機関の総医療費が50万円で自己負担額が150,000円のとき、この方の1か月の自己負担限度額は次のように計算されます。
80,100円+(総医療費50万円-267,000円)×1%= 82,430円
さらに実際に自己負担額が150,000円なので、
150,000円-82,430円 = 67,570円
67,570円が高額療養費制度で還付されます。
高額療養費の自己負担額は世帯で合算できる
一人の1回分の支払いが、高額療養費の対象にならなくても、同じ世帯(同じ公的医療保険に加入している方)で同じ月に、70歳未満の方なら21,000円以上の自己負担額が2件以上ある場合は合算して、「高額療養費制度」を利用できます。
一人が同じ月に2件以上の医療機関にかかり、それぞれの自己負担額が21,000円以上ある場合も同様。合算額が自己負担限度額を超えた金額が戻ってきます。
また「多数該当高額療養費」の制度で、1年間(直近12か月間)に高額療養費の払い戻しを受けた回数が3回以上あると、4回目から自己負担限度額が引き下げられます。
介護費用が高額になったら~「高額介護サービス費」
1か月の介護サービスの自己負担額は所得に応じた上限が定められています(一般的な所得の方の上限は37,200円)。それを超えた場合には超過分が「高額介護サービス費」として払い戻されます。
医療費も介護費用も高額になったら~「高額医療・高額介護合算療養費」
「高額医療・高額介護合算療養費」は、1年間(8月~翌年7月)に自己負担した公的医療保険と介護保険の合計額が対象。医療保険の「高額療養費制度」と介護保険の「高額介護サービス費」で還付を受け、それでも、この合算制度の基準額を超えた場合に、超過分が払い戻されます(国民健康保険と介護保険の自己負担のいずれかが0円の場合は支給されません)。基準額は世帯の年齢や所得に応じ設定されています。
生活を経済的に支え守る社会保障制度もあります
介護が必要な状態では仕事が続けられない可能性が高くなります。収入減を補うために利用したい社会保障制度があります。
病気で働けなくなったら~「傷病手当金」
「傷病手当金」は、病気やケガで働けなくなったときに、本人と家族の生活保障をする制度です。健康保険の制度なので、会社の健康保険組合、公務員なら共済組合などの健康保険に加入していることが条件。国民健康保険にはない制度です。標準報酬月額のおよそ3分の2が、最長1年6か月受け取れます。
障害の状態によっては「障害年金」も利用可能
重い病気やケガで回復が難しく障害状態になったとき、生活を支える制度として「障害年金」があります。
「障害の状態」とは、肢体不自由などの障害だけでなく、がん、糖尿病、高血圧、呼吸器疾患などの疾患で、長期療養が必要、または仕事や生活が著しく制限される状態になったときも含まれます。
国民年金なら「障害基礎年金」、厚生年金なら「障害厚生年金」が支給されます。平成28年度の障害基礎年金は1級と2級のみ。1級=975,125円、2級=780,100円(定額)です。障害厚生年金は障害状態に応じて1~3級があり、1級と2級に該当した時は、障害基礎年金と併せて受給できます。
なお、3級より軽い状態でも厚生年金加入者なら「障害手当金」として一時金が支給されます。
また自治体に申請し、障害者手帳がもらえれば、税金の減免や交通機関の運賃割引などが受けられます。
公的介護保険&社会保障制度、知ると知らないとでは大違い
ほかにも、国民年金保険料の支払いが困難になったら「国民年金」の支払い免除 、あなたの介護のために近親者が仕事を休まざるを得ない場合は「介護休業給付金」といった制度もあります。さまざまな社会保障制度で生活を守ってください。
病気は年齢に関係なく、前触れもなくやってきて、介護が必要になることもあります。今は関係なくても、あらかじめ、こうした知識を身に付けておくことは、とても大切。いざというとき、必ず役に立ちます。